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尖閣ビデオ流出と2.26事件
シビリアンコントロールを感情論で処理するな
軍事・外交機密をマスコミと世論の床屋談義が決める愚かさ

 神戸海保の中堅職員がネットに尖閣ビデオ流出させた事件が、マスコミと世論を賑わせている。横浜のAPEC首脳会議で各国首脳が日本を訪れている折から、いかにも日本的な感情論が横行している様を、各国首脳はどう見るだろうか。たぶん、日本は危機管理上、相手にする価値のない国、と見るだろう。警視庁のテロ情報流出も深刻に受け止められている。

 それはさておき、この問題の処理に関して菅内閣・政府もマスコミも世論も見当違いの論議が多すぎるので、ここで一言しておく。この事件はそう軽い事件ではなく、軍事組織のシビリアンコントロールの危機であり、間違うと戦前の2・26事件のようになる危険がある点だ。
 菅内閣の正当性を否定し、自らの正義感で反乱を起こした海保職員の義憤は2・26事件の下級青年将校の感情に通底するものがある。

 尖閣ビデオを流した神戸海保職員は事前(出頭前かネット投稿前かは不明)に読売テレビ(大阪)の社員にコンタクトしているが、海保職員がなぜ読売テレビに接触したのか、両者の関係がわからない。マスコミ関係者の間でも様々な憶測が流れているので、読売テレビは説明責任を果たすべきだ。
 
 最大の論点は、流出ビデオが「秘密」情報なのか、秘密の解釈をめぐる問題になっている。最高裁判例などを持ち出して、「秘密にあたる」「当たらない」など。しかしこれは全く方向性を見失った見当違いの論議である。

 「海保」というとイメージがつかみにくいが、警察と違って内部治安を司る以上に、外国船、不審船、外国密輸組織などと対峙し、武器を携行して戦闘能力を持つ準軍事組織だ。北朝鮮不審船を撃沈するなど、敵と銃撃戦をする場合もある。

 「海保」を英語で言うとJAPAN COAST GUARD「沿岸警備隊」となる。米国では、沿岸警備隊を陸・海・空・海兵隊に次ぐ第5の軍隊としている。どの国でも「沿岸警備隊」は軍隊に準じる組織なのだ。
 したがって海保は自衛隊に準ずる軍事組織なのに、この認識が政府にもマスコミにも世論にもない。

 このため尖閣ビデオは対外的には、軍事機密・外交機密にあたるという認識が全くなく、平和ボケそのものの議論が平和な日本列島を覆いつくす羽目になっているのだ。

 マスコミも世論も、海保職員は準軍事組織に属しているので、上官の命令に反する行動をとれば処罰されるのは当然、という論理を導きだすことができない。読売テレビが伝えるように、義憤に駆られてとか、国民の知る権利のために独断でビデオを流したとすれば、準軍事組織に属する神戸海保職員は「利敵行為」という重大な軍法違反を犯したことになるのだ。

 菅総理を支持する、支持しないの論議とは無関係に、現実の自衛隊の最高司令官は菅総理であり、シビリアンコントロールを旨とする民主主義国家の建前でいえば、尖閣ビデオが国家機密・軍事機密かどうかを決めるのは、菅総理の専権事項である。

 この点をわきまえず、法曹、警察、司法のあちこちの人物がテレビにしゃしゃり出てきて、ビデオを非公開にした政府が悪い、ビデオ流出は良かった、と海保職員の決起に同情する床屋談義を繰り返している。国民世論もテレビに引きずられて、約80%が海保職員を処罰すべきでない、という意見に落ち着いているそうだ。
 しかしこれは間違った感情論に流れている。

 大恐慌と不況に見舞われていた2・26事件のときも、政党政治を否定し、軍部独裁政治を歓迎する世論が、2・26の青年将校の決起を後押ししていた。以降、シビリアンコントロールを失った軍が台頭、ファシズムと戦争への道を歩んだことは、歴史が証明している。

 準軍事組織である海保職員の尖閣ビデオ流出事件は、ネットとユーチューブという現代情報戦争の先端ツールを使ったという点で社会に与える影響は大きい。

 ”ア菅内閣”と揶揄され政府の能力に対する期待感は低いが、現代日本で唯一の正当性のある政権なのである。
 シビリアンコントロールを失って、海保職員の行動を是認するだけでなく、英雄視する世論の風潮が出てこないように、尖閣ビデオ流出に対して厳正な判断をせよ、といいたい。

 2・26事件は昭和天皇の言葉で鎮圧されたが、菅内閣はどのようにしてシビリアンコントロールを保持するつもりか。
 このままマスコミ世論とともに日本が流れてゆけば、戦前よりももっと酷く拙劣な形態の日中戦争、日露戦争への道を歩むことになりかねない。
  
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