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これは憲政史上の危機ではないか
菅内閣改造、政権維持目的で政党政

治崩壊に導く愚かさ


 
菅内閣の改造人事を見て、驚きを通り越した憲政史上の危機を感じた。仮にも日本は三権分立の二大政党政治の時代に入り、政権交代も実現した。やっとこれで先進民主主義国家の仲間入りしたという甘い気分はとっくに粉砕されてはいたものの、正月明けの頃には一抹の期待はあった。民主党は小沢問題を超えて立ち上がるかも、と?
 ところが総理就任で有頂天になった菅さんは、取り巻きの財務官僚に踊らされたのか、唐突に消費税アップだのTPP加盟だのと思いつき、意味不明の発言の山を築き始めた。

 昨年の参院選や地方選挙では軒並みの敗者の屍累々になったが、しかしそのうちに菅さんは政権交代の意味や国民と契約したマニフェストの重みを理解するようになるのだろうと考えていた。民主党が政権交代できたのは、国民の付託を受けたからだということを、市民運動家だった菅さんがわからないはずはない。官僚に恩返しするのでなく、まずもって一票を投じた国民に恩返しするのだろうと、固く信じていた。 しかし菅さんは政党政治の常識を破壊してしまた。
 筋金入りの財政再建派でネオコン型市場原理主義にも近い与謝野氏を大臣に起用したからだ。小泉時代の自民党なら適当な人選ではあろうが、民主党の理念とはおよそかけ離れた人物ではないか。
 しかしどうやら菅さんは、民主党とは真逆の与謝野さんの経済政策を採用しようとしているらしい。 自分の座を追われた海江田氏が「人生の不条理を感じる」といった気持ちはわかる。

 政党政治のイロハに戻れば、同じ政策理念や政治思想・哲学を持った人間が集まって党派を作り、選挙で立法府の議員に選ばれた多数派が政府を構成して政治活動を行うことをいう。
 政策や理念を同じくすることが、政党政治を担う政治家の第一条件だということは、中学生でも理解できる政治論だ。
 ところが菅さんは、政策・思想が真逆とも見える与謝野さんを政権内に招き入れたということは、自ら政党政治の根拠を否定したことになる。そう思っていないのは、菅さん自身と少数の取り巻きの方々だけだろう。権力基盤さえ維持できれば、なんでもあり、というわけにはゆかないのだ。世の中とはそういうものである。それでは権力の亡者になってしまう。
 おそらく市民運動や左翼運動の中で育ってきた菅さん一派の 考えは、ブルジョワ市民的な政党政治や憲政の在り方が問題なのではなく、政治的主導権(ヘゲモニー)を敵の手中からいかにして奪取するか、というレーニン的左翼思考回路がDNAのように組み込まれているのだろう。
 かつて全共闘運動にかかわったこともあるが、そういう左翼的ヘゲモニー抗争のご都合主義に辟易して、その場を去った苦い青春体験がある。
 
 日本の憲政の歴史を考える上で、この問題はさらに重大だ。明治時代に立憲政治が日本でも曲がりなりにもスタートし、大正デモクラシーの曲折を経て、政友会、民政党という二大政党政治が生まれた。 三権分立の象徴たる参院議長の江田五月氏が法務大臣に横滑りした人事も、立法府を軽視する思想が潜んでいる。

 確立しつつあった戦前の政党政治は、昭和に入ってから2.26事件、5.15事件などの軍部青年将校による相次ぐクーデターで消滅した。浜口雄幸、犬養毅が暗殺され、このときほど日本の憲政がテロに怯えて空虚な存在になったことはない。

 敗戦後、軍国主義やテロはなくなり、米国主導の民主主義政治が実現したものの、自民党一党支配が半世紀以上も続き、二大政党政治が機能したわけではない。日本の二大政党政治も憲政の在り方も片肺飛行の閉そく状態が続いた。同じアジアでも韓国、台湾などが日本より一足先に、民主主義の政権交代を果たした。

 欧米の外国人ジャーナリストたちは、日本に政権交代がないのは、日本が正常な民主主義国家ではないからだ、と内心、馬鹿にしていた。 戦前から続く官僚が日本の実質的な支配者であることは明瞭だったから、外国ジャーナリストたちは日本の政治家への関心をさほど払う必要はなかった。

 今回の民主党の政権交代はやっとの思いで実現したものだ。それなのに小沢氏の政治とカネ、小沢派追放などの党内内紛に明け暮れて、マトモな政策のひとつも実現してはいない。
 子供手当という名のバラマキ政治が行われたり、事業仕分という名の財政緊縮パフォーマンスがマスコミを賑わせただけのことだった。
 
 打つ手をなくした菅さんは与謝野氏を招き入れて民主党の政策とは真逆の増税路線を突っ走ろうとしている。自由化、規制緩和は必ずしも悪いことではないが、現状では、日本の農業を壊滅させかねないTPPをごり押ししようとしている。
 
 つまるところ、政党政治家だった菅さんは、与謝野氏と組むことで政党政治を否定している。戦前は軍部青年将校が行ったと同じような政党政治の圧殺に政治家自身が手を貸し始めている。
 
 日本の憲政史上の危機、というゆえんである。
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