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パールハーバーの悪夢

日米双方に蘇るトラウマ 「トラートラートラ」
 
 この画像はハワイ真珠湾で日本軍の奇襲攻撃が成功し、「トラトラトラ」の暗号電報が送られたときの大日本帝国海軍が作成した「軍極秘」の戦果資料である。当時、ホノルルには日本海軍のスパイが潜入しており、真珠湾を見下ろす丘陵の上にある民家に宿泊して戦況を監視していた。この図はそのスパイが書いたものと思われる。(柴山 哲也)
   
(画像が枠外にはみ出していますがご寛容ください)


 

 昭和16年12月8日(ハワイ時間12月7日未明)の日本のパールハーバー奇襲から70余年。奇襲はハワイ住民にとっては直接の悪夢であり、米国民にとっても許しがたい悪夢だった。日本軍の奇襲によって米国は第二次世界大戦に参戦し、多数の米国民の犠牲を強いられたからだ。
 真珠湾に停泊していた米戦艦アリゾナをはじめ多くの軍艦が撃沈され、暁の眠りの中にいた米海軍の千数百人の海軍兵士たち が死んだ。アリゾナ記念館には今でも戦死者の遺影と追党の献花が置かれている。また1999年には、日本が敗戦の降伏のサインをした戦艦ミズーリが本土から真珠湾に移されて、海底にあるアリゾナを守護するようにして海上に浮かんでいる。

 軍人だけでなく民間人の犠牲者も数多く、ハワイ在住の日系人は途端の辛酸をなめさせらた。日系人はスパイ視され逮捕されたりFBIの監視下におかれた。しかし日系人たちは祖国の暴挙を怒りながらも、ひるむことなく米国市民としての義務を忠実に果たすことを誓い、第二次世界大戦の危険な戦闘に赴いて米軍最強といわれた歩兵部隊を編成して汚名挽回に励んだ。
 ハワイ出身の民主党のダニエル井上議員はイタリア戦線で視線をさまよいつつも武勲を立て、日系人初の陸軍将校になり、戦後はハワイ州選出の上院議員になった。彼の死去にさいしてハワイ出身のバマ大統領は追悼の辞を述べた。

 真珠湾が米国に与えた傷は日本人が考えているより遥かに深い。忍者のような奇襲攻撃をした日本人への警戒感は消えてはいない。
 9.11同時テロのとき現場からライブ中継するテレビキャスターは、「アメリカが攻撃を受けています。これは第二のパールハーバーです!」と叫んでいた。こういう緊急事態のとき、パールハーバーのトラウマが顔をのぞかせるのである。
 
 ところが、ハワイ大好きな日本人はホノルルマラソンには参加するのに、真珠湾を訪ねる日本人はほとんどいない。関心がないこともあるが、真珠湾に行くと否応なく、日本の過去の見たくはない歴史に付き合わされるからであろう。
 取材に行った私が日本人だと知ると、「日本人が来てくれて嬉しい」と、担当の海軍士官がわざわざ握手を求めてきた。

 真珠湾奇襲はルーズベルト大統領の陰謀で大統領は知りながらわざと奇襲を許したという陰謀説が日本ではまことしやかにいわれている。
 しかしこの背景には真珠湾を守るべき任務にあった太平洋艦隊のキンメル将軍の近親者たちが将軍の名誉回復をはかるキャンペーンを行い、マッカーサー将軍にキンメルが追い落とされたというストーリーを展開したことがあり、こうした米国の動きに同調した陰謀説と考えられている。しかしこれは米国における歴史の見直し、歴史修正主義の一環とみなされ、クリントン大統領もブッシュ大統領もキンメル将軍の名誉回復措置にサインをしなかった。
 実際、ルーズベルト陰謀説の実証できる根拠はないのである。第一、米軍兵士をはじめハワイ住民に多大の犠牲を出すような日本軍の奇襲を、大統領が黙ってみているはずはない。
 民主主義がわからない日本人が戦争勝利のためには、同胞の犠牲を平気で受け入れるという仮説を立てるのだろうが、ルーズベルトがそんなインチキをやれば大統領の犯罪として後世から糾弾されることは必至なのだ。大統領陰謀説が成立する余地はない。

 近年、日本の極端な右傾化のなかで、真珠湾の見直しを含む歴史修正主義が盛んになっている。日本側の歴史修正主義は米国の悪夢とトラウマを蘇らせる。単なる保守化、右傾化というだけでなく、ナチスを手本とせよなどど政権幹部が気軽に口にするようにになると、日本が国際社会の中で何をやってもうまくいかない、評価されないというドツボにはまる。
 大東亜戦争を肯定し、従軍慰安婦や南京虐殺は存在しないとか、戦争犯罪の隠蔽をはかることと、特定秘密保護法とか集団的自衛権が説明も不足したまま実施される動きと連動している。
 大企業が潤えば下にもおこぼれが落ちてくるというわけのわからない資本主義経済と、3年先には景気は必ず回復してみせるなどという社会主義計画経済みたいな理屈が混在するアベノミクスの理論の根拠は最初から破綻しているというべきで、ムーディズが日本の格付けを落とし、日本はシンガポール、香港、中国、韓国の後塵を拝することとなった。
  
 経済の劣化だけでなく、日本政治の貧困劣化と右翼化は国際社会の批判を浴び、欧米の一流メディアは繰り返し日本の右傾化を批判し警戒感を露わにしている。

 亡くなった菅原文太さんが、「いまの日本は、真珠湾を奇襲したときと同じだ」という言葉を遺したが、まさに心すべき時代になった。真珠湾の記憶がいまほど鮮明に蘇る12月はないだろう。 

 

 


 
 

 
 

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