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日本メディアの読みの浅さーーオバマ先制核不使用宣言報道について

ニュースを曖昧にしか伝えれらない日本のマスコミ

 

 米国大統領として初めて被爆地広島を訪問した時、オバマ氏は演説の中で先制核不使用宣言に言及した。しかし日本など同盟国の反対、側近の閣僚たちの反対で、オバマ氏はこれをひっこめざるをえなくなった。そういう趣旨の報道が日本では行われている。しかしこれはあまりに表層すぎる見方だ。なぜオバマ氏が広島を訪問し、あえてそこで先制核兵器不使用を語ったのか。

 報道のソースは『ニューヨークタイムズ』だが、タイムズに依拠しながら正確な内容の把握ができず、ニュースの分析もできていない。外国の新聞が書いた内容すら正確に伝えられない日本のマスコミとは何者か。

 

アメリカは原爆を使ってしまった

 オバマ氏は広島演説の導入部でこういった。「アメリカは原爆を使ってしまった」。実は、この言葉は71年前に原爆投下を決定したトルーマン大統領の言葉と重なる。

 「アメリカは原爆を使ってしまった」とは、トルーマンが原爆は非人道的兵器である事は知りながら、当時、生まれたばかりの新型爆弾原爆を最終兵器として使う事で、日本の無条件降伏を引き出す戦略的手段とした、という意味である。

 しかし広島と続く長崎への原爆投下以降、何千、何万個という核兵器がこの地上に作られ、今でも核保有国の兵器庫にストックされているが、3発目の核兵器がこの地上で実際に使われたことはない。

 トルーマンは戦後、広島、長崎の惨状のレポートを詳細に点検したが、非戦闘員の女性や子供を無制限に殺害し傷を与えた大量破壊兵器の原爆の使用は、今後はあり得ない事を深く悟った。彼を悩ましたのは戦争に勝つために使用した核兵器の倫理問題だった。この倫理問題は密かにトルーマンを悩まし続けたのである。

 このとき最終的にトルーマンが描いた核兵器不使用の考えは文書化もされなかったが、核兵器が使えない兵器であることは、「不文律」と考えた。この惨劇を日本に与えた自分の行為をもって人類史上の最後のものとしようと考えたのだった。こうしたトルーマンの原爆投下に対する自省に関しては、近年の新しい文書発掘などで研究が進んでいる。原爆は単なる戦略的兵器ではなく人道上の倫理的な兵器と考えられるようになった。

 オバマ氏の「アメリカは核を使ってしまった」という言葉には、こうしたトルーマンの言葉を念頭に置いたものと思われる。

 現実に核兵器を使ったトルーマンが不文律とした言葉をオバマ氏は現実の宣言として実態化しようと考えたのではないか。実際、トルーマンが71年前に語ったように、夥しい核兵器は開発され作られてきたが、それ以降、一度も使われたことはない。

 存在はするが使えない兵器、という現実認識が戦後70年間の核兵器をめぐる国際的な常識になった。

 

オバマをオバマたらしめる  

 しかし戦勝国の国連安保常任理事国の核兵器保有国だけでなく、それ以外の新興国で核兵器が開発され保有されている核拡散の現実が生まれた。北朝鮮の核開発はトルーマンの不文律などお構いなしに、自国の安全保障のために核兵器を現実に使いかねない可能性がある。確かにそういう危機感が日本や韓国には生まれている。

 またロシアのプーチンがクリミヤ併合など領土拡大の野心を見せて、ウクライナ紛争等で核兵器の配備を言及したことも、欧米諸国に危機感を募らせる結果にもなっている。

 ロシア、北朝鮮の脅威に直面しているアメリカの現職大統領のオバマ氏が、これに無関心なはずはない。それなのになぜあえて先制核不使用宣言を考えたのか。

 「オバマをオバマたらしめる」という言葉がある。

 オバマ氏は前ブッシュ政権のやったイラク戦争に反対していた。イラク戦争後のアメリカで、平和で豊かなアメリカを取り戻すことを約束して大統領に当選した。当選間もなく、ノーベル平和賞を受け、核のない世界を訴え、これに向って努力することを約束した。

 こうしたオバマ氏の平和志向、核兵器なき世界実現の公約に少しでも近づくことが、発足当時のオバマ政権の存在理由でもあった。そして政権を去るにあたって実現させた広島訪問も原点の理念の実現へ向けた一環だった。

 しかしながら理想と現実の狭間をよく知るオバマ氏は、側近のケリ―国務長官やカーター国防長官にいわれなくても先制核使用の禁止を現実化することの困難さもまたよくわかっていたはずだ。

 しかし大統領の任期を終えるにあたり、どうしても口にしておく必要があったのが、「先制核不使用」の理念だったということだ。「オバマをオバマたらしめるのは、オバマ自身でしかない」と考えたオバマ氏は広島へ向けて行動し、核兵器先制不使用のメッセージをあえて発したのであろう。

 オバマ氏が特に広島で語った内容は、世界への先制核不使用の強いメッセージとしての意味があった。米国がそうしたいという意志表示だけでなく、米国だけでなく核保有国はどの国であれ、これからの世界で核兵器を使う事は許されない、という強いメッセージだったことは疑いない。核兵器を使う国は地球上では尊敬を集める国にはならない。

 そう考えると、トルーマンの71年前の不文律を今後も生かす、という核不使用の目的は、オバマ広島訪問によって果たされというべきである。

 ところで、トランプ候補にいわせれば、オバマ大統領の評判はすこぶる芳しくない。アメリカを弱体化させた張本人はオバマであると正面から批判している。

 しかしオバマ氏の在任中にやったことを歴史的な長い目でみれば、後世によって評価される部分はたくさんある。かりにトランプ氏が大統領になったとして、その間の業績比べをしたとしたら、歴史を前に進め、人類の意識を変えたという意味では、やはりオバマ氏に軍配が上がるのではないかと私は考えている。キューバとの国交回復も同様だ。

 

安倍首相の米軍幹部への直訴について

 『ニューヨークタイムズ』はオバマ氏の核兵器先制不使用論にはアジアの同盟国の反対が強いことを実現困難の理由に挙げている。ホワイトハウスの閣僚たちも、同盟国の反対はロシア、北朝鮮に弱みを見せることにつながるとしている。

 アジアの同盟国といえば日本と韓国のことだが、安倍首相が駐日米軍の司令官にオバマ広島演説に反対することを直訴したことが、同盟国間に不協和音を鳴らしたという背景があるのかもしれない。シビリアンである安倍氏がわざわざ制服組の米軍司令官にオバマのメッセージを批判することが適切だっただろうか。それより、広島に来たオバマ氏の志を高く評価して、核兵器先制使用禁止に日本も同調するメッセージを、被爆国のシビリアン首相として高々と掲げるほうが、北朝鮮に対する抑止効果があったのではなかろうか。目には目を、核には核を、という報復の思想が、かつての大東亜戦争の侵略国であり、かつ唯一の被爆国日本の正しい選択なのだろうか。

 また最近、北方領土返還を餌にロシアのプーチン大統領と蜜月を続けている安倍首相への懸念も米側にはありそうだ。日本はロシア側か、欧米側のどっちの同盟国になるのだ、という危惧が生まれかねない。

 真珠湾奇襲前夜、大統領ルースベルトは、枢軸国ヒトラー政権に近づく東条内閣に対して、「日本は米英に同盟するか枢軸国ナチスに同盟するか、どっちなのだ」懸念を表明していた。

 そのときの東条首相のルーズベルトへの答えは、「宣戦布告なき真珠湾奇襲」だった。アメリカでは過去の日本に対するこうしたトラウマと疑念は、現代においてもたえず再生産されることを知っておく必要がある。

 米国大統領として初めて被爆地広島を訪問し、原爆犠牲者を追悼したオバマ大統領が、同じ広島で世界に発した先制核兵器不使用のメッセージは世界中で記録される。国際間の条約として存在するかどうかの問題ではなく、核超大国である米国の現職大統領が発したメッセージとして、世界史に残る有効性を持つだろう。

 世界の核保有国の指導者たちは、2016年夏のオバマの広島メッセージを知りながら、あえて核兵器の先制使用を行う蛮勇を持つだろうか。

 トルーマンが不文律としたことをオバマは、71年後の今日、広島からメッセージを発し、世界の核保有国の不文律とすることに成功したのである。少なくとも、アメリカはロシアや北朝鮮に弱体化したと見られない程度に、いかなる核兵器の使用にもさらに慎重になるだろう。

 アメリカの弱体化はアメリカ自身に内在する弱さというより、世界への影響力、あるいは同盟国への影響力の弱体化をさす。その意味でアジアの同盟国の筆頭にいる日本のアメリカ離れは、米国の指導者には頭が痛い話になる。先制核攻撃禁止に実務的に反対するホワイトハウスの閣僚にとって、アジアの同盟国の離反が懸念の材料になる。

 それはただの懸念だけでなく、実際に日本が核武装し、これに韓国が追従する。そういう核拡散の懸念も広がる。核兵器先制不使用論が、アジアの核兵器拡散を生むことにつながる危険を、日本は率先して阻止しなければならない。しかし逆に、アメリカ離れを理由に、日本が核武装を現実化したらどうなるか。

 狭苦しい朝鮮半島と日本列島が核兵器だらけになり、相互に核武装を競う近未来をオバマ氏は予想だにできないことだろう。被爆国の日本が核兵器軍拡競争のリーダーシップをとるなどは、現実にはあり得ない近未来小説としてなら、私も夏の夜の怪談として面白く読んでみたいものだ。

                          (柴山 哲也)

 

以下はニューヨークタイムズ記事へのリンク。

http://www.nytimes.com/2016/09/06/science/obama-unlikely-to-vow-no-first-use-of-nuclear-weapons.html?emc=edit_th_20160906&nl=todaysheadlines&nlid=51395565

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